「あたしフォードのこと好きだったのよねぇ」




アイスティーの氷がカランと鳴った。

ボルボは綺麗に澄んだ空色の目で向かい側に座る相手をじっと見つめている。

言われたことがよくわからなかったのか数回瞬きをしてから小首を傾げ、聞き手に心地良い低音の声で呟いた。



「そうだったのか」



自分が頼んだカフェモカを見つめたまま、うんうんと頷く。

細くて長い指がアイスティーの氷を弄ぶ様子が視界の端に入り、ボルボは思わず相手を見つめた。

夕陽に照らされたシトロエンはまるで天使のように美しい。

悩ましげに伏せた睫毛1本1本に視線を注いでいると、むっとした表情の相手と目があった。



「なーにが、そうだったのか、よ!しばらく見ないうちに仲良くなっちゃって」



シトロエンの目が据わっているのは昨晩から今朝まで飲み続けた酒のせいで間違いない。

幼馴染み4人で飲もうとルノーから誘いを受けて久し振りに顔を合わせたシトロエンは美しく成長していた。

フォードとルノーとなら普段からよく飲みに行っていたがシトロエンが来るだけであんなに酒代が浮くとは…

女の美貌は大いに役に立つとボルボは昨晩のバーのサービスの良さを思い返しながら思った。



「ライバルが同性ならまだ勝ち目あるけど…」



刺さるような視線に顔を上げると何か言い掛けたままのシトロエンがボルボを睨んでいた。



「けど、なんだ?」



カフェモカに口を付けながら上目遣いでシトロエンを見返す。

急に立ち上がったかと思うと、シトロエンは机に硬貨を叩きつけてから鞄を指に引っ掛け仁王立ちした。



「もう知りません」



驚いたように目を見開いたボルボの横を颯爽と歩いていく。





空のグラスの中から氷が溶ける音がした。









「あたしフォードのこと今も好きなのよね」


言えずに溶けた、
は誰が想い?


(シトロエン…お金足りてない)